警察に連れて行かれ事情聴取をうけたことがある。あんな機会はもうない(あってたまるか)と思うので書く。
もう10年以上前に夫と某役所に行ったときのことだ。夫の叔父の住まいが火事になり、一時的に夫の実家に住んだ。様々な手続きが必要だが叔父は体が不自由だったので、委任状を持って夫が行くことになった。まだ義父は働いていたし夫も元気だった。「手続きを手伝ってくれ」と言われ私も同行した。叔父の印鑑証明書を取得する必要があり、夫は自分の免許証を身分証明書として提出した。
しばらくすると確認のため名前を呼ばれた。夫の免許証のちょうど有効期限のあたりの文字がかすれているという。免許証は小銭入れに入れっぱなしだったため、硬貨が当たって削り取られたと思われる。(夫は当時は免許証を雑に扱い、裏にいたずら書きしたこともある)
「何か他に住所と氏名を確認できるものはありませんか? 郵便物でもいいです」
私はちょうど電話料金の請求書をもっていたのでそれを渡した。またしばらく待つ。混んでいるわけでもないのに時間がかかるなあと思った。
突然、5人の男性が素早く静かに歩いてきて「ちょっとすみません」と夫の両側から腕を取る。言い方は穏やかだが、4人が夫を取り囲むようにぴったりついて歩く。そしてひとりは私の隣に来て並んで歩き出した。私はパニックしながらも通報されたらしいことは感じとった。
「あの男性とのご関係は?」
「夫です」
「え、ご夫婦ですか?」
夫婦に見えないらしい。私は疑いを晴らそうと、隣の男性に自分の免許証を見せた。私の免許証は普通に綺麗だが、その人はチラっとしか見ない。役所の真裏に都合よく警察署があり、5人は警官なのだとわかった。
私は怖さが半分、ムカつきが半分。でも堂々としていようと思った。「こちらにどうぞ」と2階の奥に案内される、というより連れて行かれる。ほとんどの人が出払った広いオフィスで女性警官らしき人が電話していた。壁際にいくつもの小部屋があるようだ。
そこで夫は「こちらへ」私は「あちらへ」と別の小部屋(取調室?)にさっさと入れられる。なるほど、口裏合わせを防ぐのか。小さい部屋に机がひとつと椅子がふたつ。小さめの窓には鉄格子がありテレビドラマさながらだ。私は善良な一般市民なのに。
まず免許証を渡して調査にまわす(すぐ照会できるようだ)その間に色々聞かれる。役所に来た目的、火事の時期と場所、叔父との関係等。ふたりの警官が同時に聞き取りしていたようで、夫も同じ質問をうけていたと後から知る。
しばらくすると、別人が私の免許証を持って入ってきて「本物です」と返してくれた。当然だ。夫と私から別々に聞き取った内容にも矛盾はない。これも当然だ!と声に出したい気分。ただ夫の免許証は疑われても仕方なかった。かすれている上に、写真は腰まで届くロングヘアに無精髭、夏にとった写真なのでアロハのようなカラフルなシャツを着ていた。恐らく、日本人に見えない・・・
疑いが晴れた表情のその人は「旦那さん、何であんなに髪の毛伸ばしてるの?」と聞く。いつも長いわけではなく、そのころ長かっただけだ。「はあ、髪型を気にするような仕事してませんから」
実は夫も疑いが晴れた後、ふたりの警官から入れ替わり立ち替わり聞かれたという。「なんでそんなに髪の毛伸ばしてるんですか?」と。夫は「なんでそんなことに興味があるんだよ」と首をひねっていた。でも現場ですぐ疑いが晴れたのは、日本の警察はやはり優秀だと考えてあげることにした。
一緒に先ほどの役所に戻り、警官から役所の人に「大丈夫です」と通達。でも結局その日に印鑑証明をとることは出来なかった。役所の人はまだ疑っていたのではないか。あらぬ嫌疑をかけられたのだから「すみません」のひとことはあってほしかった。まあ、夫が疑いたくなるようなキャラクターなのは私も認める。
はたしてどう疑われたのだろう。多分、夫は偽造免許証で日本人の印鑑証明書を手に入れようと企む外国人。やや濃い目の顔立ちなので、フィリピンとかカンボジアとか、あるいは中東・・・の人に見えるかも。だとすると私は何者だ? 違法な外国人の手引きをするブローカー? なんか思い出したら腹立ってきた。