いつか愛せる

DVのその後のことなど

ベルサイユのばら_エピソード編感想②

 感想①ではジェローデルを選んだが、②はフェルゼンにしよう。フェルゼンは実在の人物なので、解釈は別としても行動は事実だと思われる。

 私は子どものころ、オスカルが死んだ後のことに興味を持てなかった。だからフェルゼンやジャルジェ将軍(←オスカルの父)が国王一家を亡命させようとしたエピソードも印象が薄い。有名なのは、マリーアントワネットの髪が恐怖とストレスで一気に白髪になった逸話だが、漫画に色はないのでピンと来ず。

 国王一家はヴァレンヌで民衆に捉えられ亡命は失敗に終わる。このとき国王に説得され彼らから離れたことを、フェルゼンは生涯悔やみ続ける。これが運命の6月20日。

 私が思うに、フェルゼンの運命が動いた日は2つ。ひとつはパリオペラ座の舞踏会でアントワネットに出会った日。もうひとつがこの6月20日。何だかもう、この人の人生にはマリーアントワネットしか無い(大元帥になった程だから仕事も出来たろうけれど)

「あのとき民衆に見つかってずたずたに引き裂かれ殺されていた方がずっとましだったのに!!」との台詞が大袈裟でないのは、遠藤周作の「王妃マリー・アントワネット」を読んでわかった。革命勃発後、貴族に対する民衆の仕打ちは凄まじかったらしい。

 

 11巻でフェルゼンはオーストリア大使として(←彼はスウェーデン人)ウィーンに駐在する。愛する人の祖国で偶然、政治利用されるためウィーンにいたアントワネットの娘マリー・テレーズとすれ違い、母と生写しの彼女を見て追憶の涙に暮れる。この時の彼はまだフェルゼンらしい容姿のまま。

 時間が経過し、14巻でロザリーと息子がスウェーデンに亡命すると、フェルゼンの妹ソフィアは「兄は人が変わったように無口で厳しい人になってしまった」と言う。加齢だけでなくひどく険しい顔つきにさわやかな貴公子の面影はない。

 彼は愛する人を殺した平民に反感はあるが、ロザリーと息子を助けた。それはロザリーが牢獄でアントワネットの最後の時に心こめて世話をしたから。あるいは親友だったオスカルの身内のような存在だからか。

 スウェーデンの皇太子が事故死すると、民衆はフェルゼンが暗殺したと決めつけた。「自分がスウェーデン国王になってフランスに戦争をしかけ民衆に復讐しようとしている」と。それは共和制を目指す勢力のデマによる。

「民衆というものがどれほど根拠のない噂に流され易いか」とはデマを流した側のセリフだが、フェルゼンも同じように感じていたろう。著者の池田理代子さんの思いでもあると感じた。(情報化社会の現代日本でさえ、人は根拠の無い噂に流され権力者に利用される)

フェルゼンはすでに、愛する人を殺した民衆を一歩引いたところから「愚かだ」としか見ていないのではないか。憎むほどの積極さは無いように思えた。

 

 スウェーデン皇太子の葬儀は偶然にも運命の6月20日。フェルゼンはその日にあえて人々の前に出た。私は、彼が本編で若き日にオスカルを助けたシーンを思い出した。あの時は争いの中で自分に民衆を引きつけるために名乗り出たが、今回は誰のためでもなく惨たらしい。

 運命の日に、望み通り民衆の手によりずたずたになったフェルゼンは、死の直前に光を見る。愛するアントワネットとオスカルの幻が見える。が、次の瞬間に思う。

「わたしはこのような姿で君たちに会いにゆくのか・・・」

 

身分や階級を現すだろう豪華な服もフェルゼン自身も、見る影もなくボロボロだ。そして次のページは真っ暗な背景。老いた悪魔のような顔で業火に焼かれているようにも見える。本編には無かったこれらのカットが何を現すのか。

 二通りの解釈をした。ひとつは単純に、物理的に老いてズタズタな姿で愛する人に会うことになる絶望。そしてこんな姿にした民衆への憎しみの炎。(でも死ぬ時の格好なら、オスカルは撃たれて血みどろだし、アントワネットはギロチンで首がないのに)

 著者は「フェルゼンは愛に関しては勝ち組」と言い、それは生涯愛する相手に出会えたことを指す。でもこの死に方は勝ち組に見えない。

 別の解釈をしたい。最後の一瞬に、フェルゼンは初めて後悔したのではないか? オスカルは革命に命をかけ、アントワネットは歴史に答えるため誇りをもって最後の時を過ごし死に臨んだ。でも自分は追憶に囚われ死んだように生き、その結果が「このような姿」となった。

人としては後者であってほしいと思う。他者を憎むだけで人生を終えてほしくない。

 

 話は変わるが、私が見たかなり昔の宝塚の話。脚本家は「お客さまが混乱しないように」とフェルゼンの氏名を入れ替えてしまった。

彼のフルネームは ハンス・アクセル・フォン・フォルゼン だが。

実家のスウェーデンで、彼の母は息子を「フェルゼン」と呼び、「このハンス・アクセル家が・・・」と小言を言う。

いやいやいや。フェルゼン家の息子のハンスだよね。お母さんも妹のソフィアも同じフェルゼンさんでしょ、とツッコミたくなった。最近の宝塚ではどうなっているのだろう。