いつか愛せる

DVのその後のことなど

昭和元禄落語心中

 ちょっと前に見てすごくおもしろかったアニメ「昭和元禄落語心中」長いお話でどこから書こう。あの情緒は完全に大人向け。あらすじはWikipediaにあるのでどうぞ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/昭和元禄落語心中#cite_ref-18

             

<声優>

 とにかく全員の演技がすばらしかった。当時の空気感と落語の表現。声優と落語家は主に声でキャラクターを演じ分ける共通点があるにしても、噺家担当の声優は相当落語の練習をしたと思われる。

唯一最初から最後まで出ずっぱりの八代目有楽亭八雲を演じた石田彰さん、十代から晩年まで演じて違和感なし。落語のシーンは本物の落語家のよう。

芸者のみよ吉を演じた林原めぐみさん、あんな艶っぽい演技もやる人とは知らなかった。主題歌(椎名林檎作)を歌っているのもいい。他のキャストも、全員お見事。

 

<江戸弁の懐かしさ>

 今も「笑点」があるから、馴染みのある人も多いと思う。私は東京下町出身なので、芸事には無縁だったけどリアルで「てやんでぃ」を聞いたし、私の父は時々「ひ」と「し」が入れ替わる。アニメでも毎回「ごしいきご鞭撻のほどを」と言う。

多分、原作者にはモデルにした落語家が存在すると思うけれど、私が八代目有楽亭八雲を見て思い出すのは、故桂歌丸さん。線が細くて女性を演じるのもうまかった。

もうひとりイメージが重なるのは、歌舞伎の坂東玉三郎さん。八代目八雲が芸者の家に生まれて踊りの修行をした生い立ちや、女性的な美しさが似ていると感じる。

 

<落語の衰退を憂う>

 新しい文化におされて消えそうになる、落語という文化をつなぐ話でもある。希望を持てる終わり方で良かった。

そういえば私は昔、三遊亭圓楽さんが若手のために建てたとされる寄席「若竹」に行ったことがある。残念ながら若手の話は印象が薄い。記憶にあるのはトリを務めた三遊亭楽太郎さんくらい。若竹での集客が振るわず、莫大な借金を残して閉場となったのを思い出した。

 

<人間ドラマ>

 3つの世代にまたがるストーリーは「八雲」「助六」という落語の名代をめぐるものと、男女や親子の情をめぐるものが同時進行する。

前半の主役は菊比古(=八代目八雲)と、ライバルで兄弟子の初太郎(=二代目助六)。このふたりが因縁の2つ目の世代に当たる。

性格も落語も対照的なふたりと、いわば三角関係になるのが芸者(元は満州で娼婦をしていた)みよ吉。菊比古は落語の道のため泣く泣くみよ吉に別れを告げ、彼女は破門になった助六と一緒になる。

 菊比古は七代目から「八代目八雲を継ぐよう」言われるが、八雲の名を熱望していた兄弟子の助六のため断り続ける。彼は助六とみよ吉を迎えに四国へ赴く。

この経緯はネタバレになるので書かないが、この地で助六とみよ吉は早逝し、菊比古がふたりの子である「小夏」を引取る。菊比古は東京に戻り八代目八雲を襲名する。

 後半の主役は八代目八雲に加え、小夏たち因縁の3つ目の世代になる。長くなるので省くけれど良かったら見ていただきたい。

 

<ひとくち感想>

 Wikiにはみよ吉が「菊比古との辛い別れから落語に嫌悪感をいだく」と書かれているけれど。彼女は元々「落語をする菊さんが美しい」から見ていただけで、落語への興味も理解も無い。菊比古のことも助六のことも、本能だけで愛した印象。

ひとりでは生きられない弱さがあり、落語に取られてしまう恐れから助六に落語を禁じて彼を駄目にしたと思う。ふたりの男性の人生を大きく変えてしまう女性。

 終盤では驚きの秘密が明かされる(鋭い人は途中で気付くかも知れない)ので、それを踏まえた上でもう一度見直したくなった。

様々な因縁が4つ目の世代に回収される気持ちよさ。4つめの世代の信之助は、本人の知らないところで非常に多くのものを背負っている。でもそれは因縁というよりは、多くの人の愛情であると思った。

 

<原作>

 原作は手塚治虫文化賞を受賞した漫画。ネットで試し読みできる部分だけ見てみると、アニメはほとんど原作通りのよう。声優が素晴らしい演技を見せた落語のシーンは、絵と文字だけでうまく表現されていた。

作者は雲田はるこという女性だけれど、女性の漫画家にしては珍しく女性より男性キャラの方が絵の描き分けが上手い。男性は子どもから年配者まで個性的なのに、女性がいまひとつ。こういうタイプの漫画家は「エロイカより愛をこめて」の青池保子さんくらいしか知らない。

 アニメのみよ吉が非常に艶っぽいのは、制作スタッフの思い入れが強いのかな。林原さんの演技力もあるし、やはり色付きだから🩷(色っぽい)?