いつか愛せる

DVのその後のことなど

見えないリモコン

 あの初夏の義母の退院が、夫の両親と愛猫ノンちゃんがともに生活できる最後の機会になった。1年以上は頑張っていてくれたと思う。大変なことがたくさんあったが穏やかな時期もあり、私には良い思い出になった。

 

 入院前から続いていた義父に関する義母の悩みを、いくつか思い出した。義父は買い物好きだがそれ以外はあまり動かず、ほぼ一日中テレビの前に座っていた。

 すぐ頭の上にエアコンがあり、暇だからなのかリモコンを頻繁にさわる。あのリモコンというやつは、私も画面が薄くて見えにくいと思う。高齢化社会なのだから、見やすいリモコンを開発してくれればいいのに。

で、義父はよく見えないリモコンの画面をまったく見なかった。スイッチで切り替えた時の体感のみで結果を判断する。ところが、エアコンは扇風機のように切り替え結果が瞬時に見えない。だから納得するまでリモコンを操作し続ける。

暖房設定が31度になっていたり、冷房設定が18度になっていたりするのはまだいい。よくないけど、まあ、しかたない。でも冷房と暖房と除湿を間違えるのは恐ろしい。高齢者は気温や喉の渇きも体感しにくくなるという。実際、私も夏に暖房にしているところに遭遇した。

 

 義母の部屋になった元応接間と義父のいる居間は、隣接しているがエアコンは別だ。戸を閉めていると、義母は居間の気候が狂っていても気付けない。だから夜中もときどき戸をあけて「凍死してないかしら?」と居間の気温を確認していたという。

リモコンの操作音が聞こえると「ああまたやってる」と思う。ピ!と1回で済むことはなく何度もピ!ピ!ピ!ピ!と鳴るからだ。

 夫が対策を考え、リモコンの下半分を操作出来ないよう、ガムテープをぐるぐる巻きにしたことがある。温度設定は上部にあるので操作できる。でも下は隠れて冷暖房と除湿の切り替えはできないので、大きな間違いは防げる。

それはたった数日しか保たなかった。とるのが嫌になるほどしつこくテープを巻いたのに、義父は剥がしてしまった。見苦しいほどガムテープでふくらんだリモコンは不自然だった。

 私は見た目に違和感がない方法を考えてみた。下部にあるスイッチを隠すのにちょうどいい物を見つけた。海外土産のキャンディが入っていた小さな四角い缶のふた。このふたでリモコン下部のスイッチを覆うとジャストサイズ。見た目もおしゃれだ。透明なガムテープのみで取り付けた。

それは1週間近く保ったが、やはり外されてしまった。夫はリモコンを取り上げることも検討したが、義母に「怒られるからやめてちょうだい」と言われ諦めた。

 

 もうひとつ思い出したのは、庭の植木の剪定。義父は元気なころはよく植木をカットしていた。手入れというよりカットするのが好きだったようだ。義母は「お父さんが植木を丸裸にするから、汚い家の中が外から見えちゃうわ」とこぼした。竹が多く、結構力がないと切れなかっただろう。

 のちに義父が庭に出る元気を無くしたころには、庭木は伸び放題になった。竹の根は深く伸びると聞いていたが、竹はものすごく丈夫だとわかった。駐車場だった場所のアスファルトに割れ目ができ、竹がどんどん伸びてきた。見苦しいけれど縁起が良い気がして、私は対処に悩んだ。