若いころは色んな勧誘にひっかかったが、最近話題の統一教会もそのひとつ。私が２１～２２歳くらいのころだ。実家の最寄駅のそばに彼らの定宿があったらしく、毎日毎日駅前で声をかけられた。もちろん最初は彼らは本当の目的を隠している。
何度も断ったが、押しに弱かった若き日の私は、ある日マンションについて行ってしまう。学習塾か？ と思うような明るい作りで、ひとりずつ別のブースでビデオを見せられる。最初は「幸福論」だったろうか。次に来る日の予約も入れさせられる。まあ、暇だったし。それに何かを求める気持ちがあったのだろう、あのころの私。
３回目くらいだったろうか。彼らにとって重要なポイントである「堕落論」を見せられ、感想を聞かれた。別に「ふ～ん」としか思わなかったが、何か言わねばと思い、
「前に読んだ漫画の内容と似てますね」
それは「H2O!前代未聞!! 」というコメディ。テニス漫画で有名な「エースをねらえ！」と同じ山本鈴美香の作品だった。あのコメディには少しだけ統一教会の堕落論と同じことが描かれていた。山本鈴美香氏が何かを知っていたのか、偶然ネタが一致したのかはわからない。
「是非その漫画を見せてください」
と言われ持って行って見せると、その漫画はもう二度と戻ってこなかった。催促してもはぐらかされた。恐らく彼らにとっては発禁本のようなものだったろう。
その辺でやめておけばいいのに、ついに私は彼らが強く進める合宿のようなものに参加した。週末を含む３泊４日だ。当時の私の職場は今ならブラックと呼ばれるような忙しさで、有給休暇などとったことはない。それを理由に途中で抜けようと思ったら「最終日に風邪をひいたことにして休むと電話しろ」と説得された。う～ん、カルトとはいえキリスト教の一種だったはず。聖書に「嘘をつくな」って書いてあるはずなんだけど。
合宿はいつものビデオでなくリアルな授業形式。朝は真っ暗なうちに起こされてマラソンやら体操をさせられる。若者ばかりで夜は悩み相談などするメンバーもあり、寝不足で講義中居眠りする人が大勢。すると、立って見ているスタッフが肩をつついたり肩揉みしてくれたりして起こされる。彼らは一生懸命だ。食事や寝具などの環境は悪くなかった。
ついに最終日の朝、私は仕事を休むため職場に電話をかけた。すごく心苦しくて、風邪のふりなどしなくても具合の悪そうな声が出た。上司は心配し快く了承してくれた。それが辛いとリーダーらしきスタッフに言うと、彼は私の考え方がおかしいと言わんばかりで「むしろ（ここに参加できることに）感謝すべきですよ！」と言った。
ああ、よくぞ言ってくれた。合宿中は寝不足やらで考えられなかったが、帰宅してそのことを思い出したら「もうやめた！」と思えた。職場に迷惑をかけたし、嘘をつかされたことに腹が立つ。気弱だった私も怒りのおかげで目が覚めた。そもそも教義に惹かれて行っていたわけではない。
行くのをやめると、私を勧誘した同い年のスタッフの女性から何度も電話や手紙が届いた。その女性は何年か定期的に手紙をくれたが、私は無視した。
そして最後の手紙の内容は「今度、韓国の方と結婚します」という報告だった。２５歳だったと思う。もう合同結婚式のことがニュースになっていた。あ、彼女もあの中に入ってしまうのかと思った。
あれから彼女はどうしただろう。自分が信じたものを貫いているのだろうか？ だとしたら、とんでもない相手と結婚させられたままかも知れない。生かさず殺さず労力とお金をむしられる生活を続けているのか。日本人の代表のひとりとして、韓国で謂れのない土下座行脚をさせられているのか。
彼女は私に対して悪意はまったくなかった。ただ素直にあの教義を信じ、正しいと信じていたから、たまたま通りかかった私のことも救おうとしただけだ。その結果があのような生活だとしたら。とても悲しい気持ちになる。
