いつか愛せる

DVのその後のことなど

新人類と呼ばれたころの話

お題「新入社員時代のクスっと笑える苦い思い出はありますか?」

 私の新入社員時代って恐ろしく前の話だけど、いいかな。厳密には新入行員、つまり銀行だった。時期は男女雇用機会均等法ができる直前だったので、性差別が堂々とまかり通っていた。業界の体質が古いこともあったけれど、性別によって受ける研修さえ分けられた。

 でもそれは差別ではなく、女性を保護するという捉え方。女性の方が(数字さえ合えば)男性よりは先に帰れた。一般にも知られているように、銀行はその日の収支が1円でも合わなければ、仕事を終われず帰ることが出来ない。私が配属されたのは大きな団地の中の忙しい店舗で、定時に帰れる日などほぼ皆無。合わなくて帰れないのだから残業代はつかない。週休2日制も始まる前だったし、恐ろしくブラックな職場だった。

 毎日サービス残業している間も外線電話はかかってくるけれど「女の子は7時を過ぎたら電話をとらないで」と言われた。なんだそりゃ? 会社で居留守使うの強制? 

その時間はお客さんからの電話ではない。切り替えでお客さんの電話は夜は繋がらない。

 多分、電話をとってはいけない理由はいろいろあったと思う。形式上の残業は月に10時間程度なので、実態とかけ離れているのが表沙汰になるかも知れない。労働基準監督署がチェックするための電話かも知れない。銀行の本部からも同様の電話があるかも知れない。

女性だけが電話に出てはいけないのは、おそらく男性は「勉強のため自主的に残っている」という言い訳が成り立ったからだと思う。(自分がどれほど昔から働いていたのかと、あたらめて今、ちょっと驚いた!)

 で、新人だった私はときどき気づかない振りをして7時すぎても電話をとっていた。だって私はこうして仕事しているんだもん、と思ったから。

幸か不幸か問題になるような相手からの電話は無かった。もしあったらどうなっていたろう。当時は全然考えなかったけれど、支店長以下役席者の減給や降格だってありえたかも知れない。考え無しの新人は失うものがないから怖いもの無し。

            

 そんなある日、年に一度の組合の会議があった。もちろん仕事が終わった後、支店の全員が会議室に無償で集まる。あーだこーだとお話を聞いた後、「何かご意見や質問はありませんか?」と司会が問う。みんな早く帰りたいから誰も手をあげない。すると司会者は適当に指名してくる。たまたま私も指名されてしまった。

別に言いたいことなどない。でも名指しされてしまったので何か言わなくては。だからわからなくてムカついていることを聞いた。ある意味で素直な私。

「女の子は7時過ぎたら電話とっちゃいけないと言われてますけど、仕事しているのにどうして出ちゃいけないのかわかりません」

 

・・・・・・・・・・・シ ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ン・・・・・・・・・・・

 

 空気が凍った。でも「知ったこっちゃない。聞かれたから答えただけだもん」と思った。司会者は苦笑いして理由は説明してくれなかった。

 念のため言い訳すると、私は仕事は真面目だし先輩には口ごたえひとつしたこともない。立派に歯車のひとつとして5年以上そこで働いた。

こうやってクスッと笑えるネタになったけれど、当時のおじさん達の気持ちはわかる。ハラハラさせてすみませんでしたね~ あのころは新人類だったもので。