いつか愛せる

DVのその後のことなど

情報管理が微妙に緩かったころ

 なぜか個人情報関連のニュースが目に付く。十数年前はもっと緩かったのを思い出した。

私は事務職の派遣でIT関連会社にいた。管理部門で、全社のプライバシーマークや情報セキュリティ認証取得を推進するような部署だった。

IT会社だけに、当時の新しいシステムをよく取り入れた。あるとき社員証を兼ねる入館カードに、社内パソコン使用のセキュリティ機能が加わった。

 パソコンを使う際、自分の入館カードをセットしないとログオン出来ない。誰がいつそのパソコンを使用したかのログもとれるし、立場によってどこまでアクセス出来るかの管理も簡単。情報セキュリティを考えれば機能的。

 でもこれのおかげで問題が続出した。入館カードをパソコンにセットして使うから、席を立つ時カードを持って出るのを忘れる。私も忘れた。

トイレに行っただけなのに、帰ってくると執務室のドアのロックを解除出来ない。入り口の前でウロウロする人が増えた。中にいる人に電話で「開けて~」と言う人もいる。仕事の効率が落ちた。

              

 ある日、上司に社内アンケートの集計を頼まれた。待遇などに関するアンケートの回答は極秘情報と言える。私はその回答データには当然アクセス権が無い。アクセス出来る場所へのコピーも禁止されている。

 すると上司は「僕のカードと取り換えてよ」と言って、自分のカードとパソコンを私に渡してくれる。

さらに、私は一番廊下側の人通りの多い席だったから「誰にも見えないように僕の席で作業して」と言う。

そして私の入館カードを持って「じゃあ会議に出てくるから」と行ってしまった。社員よりは、部外者の派遣社員の方が見ても問題無いと思われたのかな。

 でもペーペーの派遣社員が部長席に座るなんて、誰かに怒られないかしらん···と思ったけれど、幸いチラ見する人はいても誰にも何も言われず。それでいいのかな? 

 だってその上司は、情報管理の旗振りをするような部署の部長。しかも執行役員を兼ねる立場の人。その瞬間、上司の権限のすべてが私の手にあった

その上司の名前であらゆるところにアクセス出来て、情報を盗むことも部長名で承認したりメールを出すことも出来る。怖い···

 信用してくれるのはありがたいけれど、こちらは冷や汗ものだった。まさか今はもうそんなやり方はしないと思う。