いつか愛せる

DVのその後のことなど

介護にまつわる香りと匂い

 義母は香りにこだわる人だった。シャネルの香水がお気に入りだが要介護になって買うのを諦めていたらしい。

お茶の香りにもこだわった。必ずしも高級品だけを好むわけでなく、私がスーパーで買った安価な抹茶入り玄米茶を「これ美味しいわ」と言ってくれたりした。

 日帰り社員旅行で桃の香りのウーロン茶を買ってきたときも、喜んで一緒にお茶を楽しんだ。糖尿病の義父には少しだけお裾分けして、義母とふたりでスイーツを堪能するのはちょっとした秘密の共有だった。

 

 当然ながら義母は不快な臭いも気にする。玄関や部屋の消臭芳香剤を頼まれたりした。

そんな義母を悩ませたのが、義父の豪放磊落さと言おうか何と言おうか。老化に従い、トイレに行くことまで面倒くさがるようになったこと。

 義父が座る定位置は庭に面した窓際で、ガラッと開けてそこでオ〇ッコしてしまう。ついでにゴミも投げ捨てる。もちろん臭くなるし庭は悲惨な状態になる。

トイレはともかくゴミ箱は義父のすぐ後ろに置いてあったのに、振り返って椅子から立つのも面倒だったのか。「お父さんやめて」という義母の言うことは聞いてくれない。

 

 夫は最初のころは義父に文句を言い庭に水を撒いていたが、途中で諦めた。たまに実家に行けても父から離れた場所で煙草を吸っているだけ。匂いが嫌で絶対に食事はしない。

夫は義母の入院中、義父に強く言いすぎて「わかったよ死ねばいいんだろう!」と言われてしまったので、もう怒りたくなかったのだろう。

 私はまだ義父本人の前では何も気付かない振りをして、ケアマネージャーに相談していた。ケアマネさんははっきり義父に言ってくれた。「ちゃんとトイレに行きましょう」

義父はそのときには素直に了承するのだが、すぐ元に戻る。

次には「尿瓶を使ってください」と用意してくれたが、義父はそれは嫌だと言う。

 

 ある時ケアマネさんとヘルパーさん2人が協力し、ひどい状態になった庭を掃除し水を撒き臭いも消してくれた。私も途中から参加したが、本当にありがたかった。

そして庭に大きめの段ボール箱を置いた。ゴミを入れられてもすぐ捨てられるし、そこでオ〇ッコはしにくいはず。さすがは介護のプロ。良いアイディアだと感心したが、長くはもたなかった。段ボールは雨に濡れるし、義父はその上からもオ〇ッコした。

 

 ケアマネさんがそこまでしてくれるころには、お隣の家から苦情が来ていた。臭いも酷いし、子どもが2階から義父の姿を見てしまったという。新築で引っ越してきて1年足らずのお隣さんには本当に気の毒だが、私たちも途方に暮れていた。

 ある時、小さなアイディアがひらめいた。ドラッグストアで何か役立つものが無いか物色していたとき、私の目についたのはペットの匂い消し。これはかなり効果があった。

犬の排泄物の匂いを消すスプレーは、人間にも流用出来ると判明した。私が義実家に行くとまず義父の目の前でスプレーしまくった。

「うわ、臭い! お父さん庭にスプレーしますねー」もう義父の立場に配慮する余裕は消えた。あとは義父が隣のお子さんの目に触れないよう祈るしかなかった。

 

 今となっては苦笑しながら話せるし「天国のお父さんお母さん、書いちゃってごめんなさい」と思う。でも誰かの役に立つかも知れない。

似たようなことで悩んでいる方がいたら、ペットの消臭剤おすすめします! ペット用のトイレシートも敷いておくと更に良いかも。