いつか愛せる

DVのその後のことなど

最大の土壇場キャンセル

 2018年9月13日は、義母が療養型の病院へ転院する予定の日だった。ずっと夫の具合は悪く、日によって私はそばを離れられず介護ベッドの返却にも行けなかった。

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 そしてまた義母の転院日も、夫の体調は最悪だった。どうすればいい? 義母の転院には大勢の人がかかわっているはず。転院前後それぞれの病院スタッフや介護タクシーのスケジュールが組まれている。義母自身だって心の準備をしているかも知れない。

 それを当日、あと数時間のところでキャンセルなんてありえない。看護師さんに「困ります!」と言われるまでもなく、私もそう思っていた。

            

 だから。何とか夫が堪えてくれないかと期待した。キャンセルすれば大勢に迷惑がかかる。でもしない場合は夫ひとりで済む。そもそも夫が動けない理由がわからず、どの程度の重大事か判断できない。

 でも見るからにひどい状態で「行ってこい」と力なく言われても、私が出た後に夫がどうなるかわからない。誰かが頭の中で私を責める。「夫の両親のために夫を見殺しにするのか」そんなわけない。私は自分の都合でなく夫のかわりに動くのにと反論する。

 でも本当に自分の都合ではないと言える? ドタキャンしたくないのは私の都合ではないの? 人に迷惑をかけたくないというのは言い訳で、関係者に文句を言われたくないだけでは? つまらない対面のために夫を犠牲にするの?

 そんな風に私が自分の心を探るようになったのは、DVから回復する際についた習慣。そこから答えを出そうとする。義母の転院は今日でなくても可能だけれど、夫を放置して死なないという保証は無い。だから私は再確認した。

「本当に私が行く方がいいの? 行って欲しくないならそう言って」

するとやっと「本当は居てほしい」と言うので、キャンセルを決意して病院に電話した。

 今こうして書くと冷静に思われそうだけれど、私は途方にくれていた。対応してくれた看護師さんにも、みっともない状態をさらけ出した。

私「今日は行けません」

看「それは困ります!」

私「夫が倒れて動けないんです···」

そんなやり取りをしたときの私は泣き声だったと思う。あとはどう言えばいいかわからず絶句。すると何か悟った看護師さんはあちらこちらに連絡をとり、翌日に変更しますと伝えてくれた。

 元々その日は休みをとっていたので、家に居られることになった。私が居てもトイレに行く手助け程度で、何が出来るわけでもない。私は夫を励ましながら隣に横になり、自分も疲れ切って休んだ。限界だったと思うし、私自身に休みが必要だったかも知れない。

 スケジュール変更で翌日も仕事を休まなくてはならなくなった。たまたま祭日や週末に重なり5連休になってしまう。会社の人にも申し訳ないと思うものの、迷惑をかけなくてはどうにもならないこともあると知った。迷惑をかけない事にがんじがらめに囚われて自分が壊れる方が、もっと迷惑になる。